【要確認】ドローン農薬散布によるメリット・デメリットは?農薬散布の基本から解説

公開:2024.05.31  更新日:2024.06.02

農薬散布

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スマート農業の一環として導入数が増えているのが、ドローンによる農薬散布です。

ドローンによる農薬散布と聞くと、ドローンが空中を飛びながら非常に広範囲で農薬を散布する、効率的な農業を想像する方が多いと思います。

確かに、ドローンによる農薬散布を導入すれば、労働力が不足している農業従事者の問題を改善するでしょう。

しかし、ドローンによる農薬散布は基本的なポイントを抑えた上でなければ、大きくなるはずのメリットを感じられず、デメリットを強く感じてしまう恐れがあります。

そのため、本記事ではドローンによる農薬散布の基本的なポイントから、実際にドローンの農薬散布を導入する上で発生するメリットやデメリットについて詳しくお伝えします。

ドローン農薬散布の基本を抑えた上でメリット・デメリットを知ろう

一般的なドローン飛行と同様に、ドローンで農薬散布を行う時も同様に航空法で規制されています。撒布する「農薬」は使い方を間違えると人体に有害な物質になるため、使用する際は「農薬取締法」に従い、適切に管理しなければいけません。

ドローンによる農薬散布のメリット・デメリットを知るには、まず基本的なところを理解することが重要です。具体的に、ドローンの農薬散布について知る上で抑えておきたいポイントを紹介します。

航空法におけるドローン農薬散布の規制

ドローンによる農薬散布は「物件投下」「危険物輸送」に該当する特定飛行であるため、人口集中地区外で実施するとしても国土交通大臣から最低でも飛行承認を得る必要があります。

承認を得るための条件には、パイロット自身が10時間以上の飛行経験と5回以上の物件投下の経験者でなければいけません。また、航空法による義務として、飛行計画の通報や飛行日誌の記録も抑えておきましょう。

ドローンで農薬散布を行うための特定の資格や免許は必要ありませんが、農薬の空中散布を行う場合、原則として補助者を配置する必要があります。

補助者配置などの立入管理措置を講じずに農薬散布(物件投下)を行う場合はカテゴリーⅢ飛行となるため、国家資格保有者がパイロットであるなど、さまざまな条件を満たさなければ実施できません。

なお、立入管理措置は補助者を配置する場合と同等に立入管理区画が明示され、第三者の立入りを確実に制限することができる場合は、必ずしも補助者を配置しなくとも、立入管理措置として代替可能です。

「ドローンによる農薬散布」における規制・ルール①農薬の使い方「ドローンによる農薬散布」における規制・ルール②空中散布ガイドラインの遵守

ドローンによる農薬散布を問わず、農薬の使用者は農薬取締法に従って使用基準に従って使用すれば安全であると判断できる農薬として登録された農薬以外は使用できません。

農薬使用者は農薬取締法に基づき、農作物や人畜、周辺環境等に危害を及ぼさないようにする責務を果たす必要があります。

責務にともない、農薬を使用する際は各農薬に定められた使用対象となる作物名や使用時期、使用量、希釈倍数などの使用基準を満たして使用しなければいけません。

ドローンで農薬散布を行う際はタンク等に農薬を積載して散布しますが、人力での農薬散布に比べてタンクの容量が小さいことがほとんどです。そのため、ドローンで液体の農薬を散布する際は、高濃度・少量でできる「ドローンに適した農薬」の使用が求められています。

使用方法のほかの使用基準を遵守していれば、散布機器が指定されていない「散布」「全面土壌散布」などが指定されている粒剤などの農薬も、ドローンに適した農薬として登録されていれば散布可能です。

ただし、液剤や粒剤の農薬と違い、粉剤や粒が小さい粒剤はドローンでの散布に適していません。

粉末状の農薬はドローンの散布装置内部で詰まりやすく均一な散布が難しいため、粒径の小さい農薬は風に飛ばされやすく、散布精度が低下するほか意図せぬ周辺への危害となってしまう可能性が高いことなどが主な理由です。

なお、農薬使用者は農薬使用者が遵守すべき基準に基づき、農薬を使用した日時や場所などの詳細を帳簿に記録することが求められています。

また、農薬使用者は農薬散布時に周辺環境等に危害が及ばないよう、細心の注意を払わなければいけません。空中で農薬を散布するドローンは、特に注意が必要です。

「ドローンによる農薬散布」における規制・ルール②空中散布ガイドラインの遵守

農薬取締法では、より安全かつ適正なドローン等による空中散布を行うための「空中散布ガイドライン」が用意されています。このガイドラインは、農薬使用者が空中で散布する上で農薬を安全かつ適切に使用するための参考となるよう、目安として作成されました。

ドローン等により空中で農薬散布を行う者が空中散布ガイドラインを守らなかったとしても、特に罰則や罰金は発生しません。しかし、農薬は使い方を誤れば人畜への毒になり得る物質です。

なお、ドローンで農薬散布を行う際は農林水産省に散布計画を提出したり、農林水産航空協会の認定技能を取得する必要はありません。

過去には農林水産航空協会による機体の機能・性能の確認と登録や操縦者の技能認定が存在していましたが、解釈に誤解を与えてしまうことがあることを鑑みて、この技能認定は2019年7月に廃止されました。

改めて確認したい、日本国内の農薬散布における課題

農薬散布に対して1回限りの散布をイメージする方は多いですが、散布する農薬は年間で1回や1種類ではありません。農薬は殺虫剤、殺菌剤、殺虫殺菌剤、除草剤、殺そ剤、植物成長調整剤、その他に分かれており、年間を通して各作物の栽培スケジュールに合わせ、複数回に渡って散布しなければいけません。

ドローンや無人ヘリを使わない場合は、当然ですが人力で農薬散布を行う必要があります。人力で農薬散布を行う場合の主な散布方法は4つほどあり、それぞれの散布方法における1ヘクタールごとの目安散布時間は以下の通りです。

  1. 背負式動力散布機:雑草防除の場合は0.5~1時間程度。病害虫防除は2~3時間程度
  2. 動力噴霧機:雑草防除で4-7時間、病害虫防除は3時間程度。
  3. 人力散粒機:除草剤散布で3時間程度
  4. ブームスプレーヤー:雑草防除、病害虫防除、除草剤散布で1.4時間程度

農業人口の推移

人手や労働力があれば、人力でも短時間で農薬散布が完了するかもしれません。しかし、農林水産省の調査「農業労働力に関する統計」によると、2015年から2022年までで既存の農業従事者も新規就農者も減るばかりです。また、同調査では既存の2024年農業従事者の平均年齢は68.7歳と、過去9年間で最高齢を記録しています。

農薬散布はただでさえ時間と労力がかかる作業です。例えば、背負式動力散布機であれば軽量エンジンと薬剤タンクを背負い、1ヘクタールあたり1時間から3時間程度をかけて3~4kgの薬剤を散布します。散布労力が大きい特に草姿が大型の作物や、多回数の散布が必要な作物には適していますが、重い装備を長時間背負う必要があり、体力的な負担が大きいことが想像つくでしょう。

日本国内の農業は後継者不足や高齢化が問題視されていますが、実際の現場で人力で農薬散布やその他業務を担える、体力がある若手農業従事者が不足しているという背景があります。

このため、近年では手軽に導入可能なドローンによる農薬散布を実施する農業従事者が急増中です。

ドローンで農薬散布を行うメリット・デメリットは?

お伝えしたように、農業分野では後継者問題なども含み、全体的に労働力が不足しているのが現状です。そのため、農業分野でこの問題を改善するため、ロボットやAI、IoTなどの先端技術を活用する「スマート農業」が導入され始めています。

そして、スマート農業としての施策のひとつとして導入率が高いのが、ドローンによる農薬散布です。ドローンにより農薬散布された面積が2017年には9,690ヘクタールだったのに対し、2020年には119,500ヘクタールまで急速に増えていることからも、農業従事者にとってドローンで農薬散布を行うメリットが非常に強いことが分かります。

もちろん、ドローン導入はメリットだけではなく、デメリットも存在するのは事実です。

実際に、具体的にドローンで農薬散布を行うメリットやデメリットにどのようなものがあるかをご紹介します。

ドローン農薬散布のメリット①効率性の向上&作業時間の短縮

ドローンによる農薬散布のメリットでもっとも顕著なのは、作業効率の向上による作業時間の短縮です。

農薬散布を行う対象は農地ですが、平均的に一経営あたりの農地がどのくらいの面積かをご存じでしょうか。農林水産省統計部の農業構造動態調査によると、2023年度の平均面積は北海道が34.0ヘクタール、北海道を除いた都府県の平均面積は2.4ヘクタールとのことです。

先程解説した背負式動力散布機を使用して病害虫防除を行う場合、単純計算でも北海道は64~102時間/ヘクタールに、都府県は4.8~7.2時間/ヘクタールの作業時間がかかります。

しかし、ドローンを使用すれば、この散布時間が1/8~1/10まで削減可能です。

例えばヤマハ発動機が開発した農薬散布ドローン「YMR-08」は10L積載できる薬剤タンクを約15km/hのスピードで飛行しながら、農薬を散布できます。農薬散布にかかる時間は実際の農地や作業条件によっても異なりますが、3~4kgの液体農薬を1ヘクタールに対して散布する場合であれば、たったの10~30分で農薬散布が完了します。

ドローンによる農薬散布時間を15分、都府県の人力による散布時間を4.8時間(288分)と仮定した場合、作業時間は273分削減でき、その削減率は驚きの94.8%です。

使用するドローンのスペックによっても削減可能な散布時間は異なりますが、ドローンで農薬散布を行う場合は圧倒的に作業時間を短縮できるため、作業効率も向上します。

そのため、農業従事者にとってのドローンによる農薬散布の最大のメリットは、作業効率を向上しながらも作業時間を短縮できる点だと言えるでしょう。

ドローン農薬散布のメリット②人力散布より少ない労力とコストで収穫量が向上

基本的に人力で農薬散布を行う際は、散布する農地の面積や農薬量に応じて作業時間と労働量が発生するため、複数人で農薬を散布することが多いです。

しかし高齢化が進んでいたり作業者が少ない場合は、農協などに農薬散布を行うことも珍しくありません。その場合、農薬散布を委託するコストが大きいため、最小限の回数でしか農薬を散布できない場合も多く、その場合は害虫被害なども増えやすい傾向にあります。

しかし、これは自前で農薬を散布できるようになれば解決します。ここでも活躍するのがドローンです。

農林総合研究センター(農業試験場)が公開している「自動飛行ドローンによる液剤散布時間削減効果」では、1ヘクタールに対するブームスプレーヤーとドローンによる農薬散布において、それぞれで発生した作業時間と作業者数、労働時間を比較しています。

この資料の例では、ブームスプレーヤーは3名で16.4分・人/1haの労働時間だったのに対し、ドローンでは2名で9.8分・人/1haの労働時間という結果になり、ドローンによる農薬散布は労働時間を40%削減することに成功しました。

ドローンでの農薬散布を自動操縦で行う場合は測量等で飛行ルートを作成する必要がありますが、農地の変動がなければ次年度以降も同じルートで自動農薬散布が可能です。

ドローンでの農薬散布は人力に比べて労働力及び労働量が少なくて済むため、高齢化や作業者数に悩まされていても、安定した農薬散布が実現できます。

そして、自前でドローンを導入すれば委託するよりも手軽に農薬散布ができるため、任意のタイミングで農薬を散布できる状態です。

実際、農林水産省の「農薬散布用ドローンの導入による適期防除と作業時間の短縮」という資料では、適宜防除ができるようになった結果害虫被害が削減され、収穫量が向上したというデータが明らかになっています。

このように、ドローン導入はただ作業時間を減らすだけではなく、少ない作業者数や労働量でも、収穫量を向上することに繋がります。

ドローン農薬散布のデメリット①初期導入コストの負担が大きい

通常のドローンと違い、農薬散布に特化したドローンは特に機体購入費の負担が大きくなりやすく、目安として50~300万程度がかかります。

そのほか、ドローンの操縦技能や物件投下経験を取得するためのドローンスクール受講費として20~30万、ドローン自体の損害賠償等の保険加入費やバッテリー購入費などがかかるため、初期導入コストの負担が厳しいと考える方は多いです。

また、実際にドローンを導入してからは点検やメンテナンスの費用が年間で発生し、バッテリーやプロペラなどの消耗部品の交換費用も発生します。

ドローン農薬散布のデメリット②まだドローンに適した登録農薬の数が多くない

ドローン導入前までに使用していた通常の液体農薬はドローンに使用出来ないことがほとんどです。そのため、ドローンを導入する場合はドローンに適した農薬として登録されている薬剤を別途で購入しなければいけません。

しかし、通常で使用出来る農薬に比べて、ドローンに適した登録農薬の数はまだまだ少ないという課題があります。

2024年3月31日時点で登録されている登録が有効な農薬は4,059件とされていますが、そのうち2023年1月末時点でドローンに適した農薬として登録されているのは1,157件のみです。

今まで使用していた農薬がドローンに適した農薬として登録されていなければ、登録されているほかの農薬に切り替えざるをえません。その場合、育てている作物への農薬効果を検証する必要が発生します。

農業用ドローンは今後さらに普及していく可能性が高いですが、まだまだ発展途中のため、使用できる農薬が少ないというのはドローンで農薬散布を行う上でのデメリットとして考えられやすいです。

ドローンによる農薬散布はデメリットを理解して導入すればメリットが大きい

そもそもドローンによる農薬散布はどういうことなのかという基本的なところから、実際に農薬散布用ドローンを導入するメリット・デメリットについて解説しました。

農薬散布は通常の空撮よりも規制が厳しく使用できる農薬が限定されているものの、労働力不足が問題視されている農業従事者が導入するメリットは非常に大きいです。

もちろん導入に伴う初期コストは発生しますが、数年間に渡りドローンで農薬散布をするのであれば約4~5年で元を取れると言われています。

ドローンによる農薬散布を導入する場合は、事前に自分が使用している農薬が対応しているかなどデメリットになりえる点を把握してから導入することで、より大きなメリットを実感できるようになるでしょう。

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この記事を書いた人

1等無人航空機操縦士資格保有

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